髙橋修法律事務所

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会社法務Q&A

製造物(PL)責任

2017.12.25

製造物責任法(PL法)は、製造物の欠陥により消費者の生命、身体又は財産に被害が発生したとき、製造業者等に過失があるかどうかを問うことなく、消費者がこれらの者に対し民事上の賠償責任を負うことを定めた法律で、平成7年7月1日から施行されました。
PL法では過失責任の原則をとらず、無過失責任の原則を採用しています。従来の過失責任の原則のもとでは、消費者が製造物の欠陥のため被害を受けた場合、消費者は製造業者等に被害の発生についての過失があることを立証しなければなりませんでしたが、専門的知識をもたない一般の消費者がそれを立証するのは大変困難でした。この点、PL法では、消費者は過失の立証にかえて、製造物の欠陥を立証すれば製造業者等の責任を問うことができるようにしています。消費者にとっては、むずかしい過失の立証をする必要なく、製造物の欠陥さえ立証すればよいわけですから、被害の救済が受けやすくなったわけで、被害者の保護を図った点にPL法の大きな意義があります。
もっとも、現在PL法にもとづく訴訟は濫訴の状況にはなっていません。これは、従来の過失責任の下でも過失の事実上の推定などの法理で立証責任が軽減され、一方PL責任と言っても絶対責任でなく被害者は欠陥を立証する必要があり、実務的には両者の責任は実質的に差異はあまりないことが影響しているものと思われます。

1 製造物とはどのようなものですか
PL法では製造物とは「製造又は加工された財産」と定めています。以下に「製造物」に含まれるかどうか、問題となるものをあげてみます。

① 不動産は製造物に含まれません。

② 農林水産物のうち未加工農林水産物については、基本的に自然の力を利用して生産されたもので、高度に加工された工業製品とは生産形態が著しく違うなどの理由で、製造物責任の対象とはなりません。加工農林水産物は、その対象となります。

③ 電気等の無形エネルギーやソフトウェア、サービスは、対象となりません。但し、ソフトをプリインストールしたパソコンで、ソフトに欠陥があるときはパソコン自体の欠陥として対象になります。

④ 製品を構成する部品・原材料自体は消費者に届く最終製品ではなく、またそれ自体は独立した動産としての性格を失っていますが、最終製品に欠陥があって、それが部品や原材料の欠陥に起因する場合には、部品や原材料についても製造物責任の対象とするのが妥当と考えられます。

⑤ 中古品は「製造物」として製造物責任の対象となります。しかし、中古品は以前の使用者の使用状況や修理等の状況が確認しにくいことや、製品のマニュアルなどの紛失や警告ラベルの損傷なども多く、これらの事情も考慮する必要があります。

⑥ いったん廃棄された物は、もはや製品として利用されることが予定されていませんから、製造物責任の対象とすることは適当ではありません。しかし、廃棄物の中には、再び製品として流通におかれる物もあり、このような物は中古品として取り扱われる場合があります。

2 誰が責任を問われるのですか。
① 真の製造業者
「当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者」で、これが責任の主体の中心となります。
② 「自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者またはその製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者」
③ 「②にかかげる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入または販売に係わる形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」

上の ②③は表示製造者として責任を負うことになります。②の前段はOEMで製造業者として表示した当事者、②の後段はスーパーなど大手流通業者がメーカーに発注して製造させるPB(プライベートブランド)があたります。

反対に責任主体から除外される者は次の者です。

① 販売・賃貸・リ-ス業者は、直接の買主や貸主に対し契約上の責任を負っており、また製品の設計や製造に直接関与していないことから責任主体から除外されました。
② 設置・修理業者は製造物の欠陥に対する寄与の程度は低く、また製品が流通におかれた後の問題であることから責任を負いません。
③ 梱包・運送・倉庫業者は、製品の設計・製造に関わったものではなく、製造者や流通業者などから依頼を受けて役務を提供する者で、役務の依頼者に対し責任を追求できる限り、これらの者に対する責任は問えなくても問題はないと考えられます。

3 どんな製品が欠陥となるのですか。
PL法では欠陥とは「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係わる事情を考慮して、製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」と定めています。ですから,安全性にかかわらないような単なる品質上の不具合は,この法律の賠償責任の根拠とされる欠陥には当たりません。なお,本法でいう「欠陥」に当たらないために損害賠償責任の対象にならない場合であっても,現行の民法に基づく瑕疵担保責任,債務不履行責任,不法行為責任などの要件を満たせば,被害者はそれぞれの責任に基づく損害賠償を請求することができます。

4 責任が免除される場合はあるのですか。
製造業者等の責任が免除される場合は次の二つです。
① 「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」いわゆる「開発危険の抗弁」といわれるものです。
② 「当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと」

5 いつまで責任を問えるのですか
「損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時3年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等は製造物を引き渡した時から10年を経過したときも、同様とする」と定めています。右の10年の除斥期間の起算について「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が表れる損害については、その損害が生じた時から起算する」と定めています。

6 企業はどのような対策をとればいいのですか
従来の過失責任の原則に対応した体制しかもたない大部分の企業の従事員は、製造物責任が過失責任でなく無過失責任に転換したことを、十分に認識することが大切です。そのうえで、製造物責任の対策のための組織づくりと社内教育により会社の体制を整える必要があります。

第1に、対策の中心となるものは製品安全対策です。
安全性の確保と向上に一層努力することが重要です。製品の欠陥をなくし、また製品の欠陥による事故の発生を防止するためには、製品の設計、製造及び販売の各段階において対策を講じる必要があり、安全な製品を製造するための技術開発や,工程管理,出荷前の検査などが大切です。また,表示や取扱説明書の適正化の充実により,製品販売後の被害の発生の防止に努めることも大切です。

第2に、責任防御対策です。
これは事故が発生した場合の消費者からの法的責任の追及に対する対策です。事故が発生したときは、製品の回収や消費者からの苦情処理システムの組織づくりと社内教育が重要となります。クレームがあった時の消費者への謝罪、賠償、製品の交換、製品の回収(リコール)など適切に対応する必要があり、特にクレームに対する最初の担当者の対応は最も重要です。
また、この対策は事故や訴訟が起こった後の対策だけでなく、事故の発生前からPL訴訟に備えて文書、製品サンプル、実験記録等を作成・保存したり、常日頃から顧問弁護士からの助言・指導を受けたり、またPL保険に加入するなどの責任防止対策も含みます。

髙橋修法律事務所はPL責任についても扱っています。お気軽にご相談ください。