髙橋修法律事務所

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ある壮絶な事件

2006.04.26

1 交際していた男性の脅かし
大阪に住む21歳の独身女性であるAさんは、年下の男性と交際をはじめましたが、男性が京都に住んでいたこともあって、あまり会うことが出来ず携帯電話などで連絡を取りあっていました。

ある日、男性から「携帯電話代の請求が10万円ほどきた。おまえのためにかけた電話だから払え」と言われました。Aさんはそんなお金払えないと答えると、友達と一緒に家にお金を取りに行くと脅かされました。Aさんは、自分の方から電話をかけることの方が多かったので、男性に請求書を見せてくれと言ったところ、男性から暴力を振るわれました。Aさんは払わないとこれから何をされるか恐かったので大手のサラ金から10万円を借りて男性に渡しました。それが、Aさんのサラ金からの借金の始まりでした。

その後、Aさんは男性と別れようと思い、そのことを男性に告げたところ、「別れたくない。おまえとは結婚を考えている。でも先輩に借金があるので、それを返してからだ」と言い、今度は先輩の借金50万円を払えと言ってきました。そんな大金は払えないとAさんが答えると、男性は友人を呼びだして、友人と一緒に家に来てAさんを殴りました。Aさんは、それでも払えないと言いましたが、男性はAさんの両親の家にお金を取りに行くと言いました。Aさんは両親に専門学校に行かせてもらっており、これ以上親に迷惑をかけられないので、またサラ金2社から合計50万円を借りて男性に渡しました。

その後も、男性から脅かされてAさんは風俗で働いたり、サラ金から借りて男性にお金をもっていくことが続きました。Aさんは男性から離れたくて電話番号を変えたり、男性の両親に電話したりしましたが、男性の両親は「息子に注意しときます」と言うだけでした。Aさんは警察に行こうとも思いましたが、仕返しが恐くてどうしても行けませんでした。その後、男性はAさんからお金をこれ以上とれないと分かったのかAさんに連絡しなくなり姿も見せなくなりました。

 妊娠、ヤミ金
Aさんはその男性のことで悩んでいた時、相談にのってくれた同じ年の大学生の男性と交際を始めました。

しかし、その時Aさんの借金は200万円ほどになっており、Aさんは風俗の仕事をして借金を返済するようになりました。やがて、Aさんはその大学生の子供を妊娠しているのが分かりました。Aさんは、すぐに中絶しようと思い、以前友人が保険証がいらない病院で中絶したことがあると言っていたのを思い出し、そこなら親に心配をかけずに中絶できると思い、友達に病院を教えてもらいました。訪ねてみると、そこは病院でなく、個人の男性医師でした。その医師に事情を話すと、30万円ほどの費用がいると言われました。Aさんは、悩んだ末に中絶することにしましたが、相手の大学生にも費用の半分は負担してほしいと頼みました。大学生は親から仕送りを受けている身だからと言って、なかなか払ってくれませんでした。Aさんは、風俗の仕事を延長するなどして懸命に働きました。

その後、生理がなかなかこないのに気づき、診察を受けたところ、妊娠6ヶ月になっていて、もうおろせないと言われました。そんな時、家に帰ると「5万円貸します」という葉書が入っていました。サラ金に対するその月の支払いが足りなかったので、Aさんはそこに電話して5万円を自分の銀行口座に振り込んでもらいました。1週間後、その借りた所から1週間ごとに1万円の利息を返済するように言われました。Aさんはそこがヤミ金業者であることが初めて分かりました。すると、次から次にヤミ金と思われる所からダイレクトメールがAさんの家に来るようになり、返済に困っていたAさんは次々に借りまくりました。そして、借りたヤミ金業者は40件ほどになりました。
Aさんは結局サラ金業者11社に250万円のほか、40ほどの数多くのヤミ金業者に借金を抱えた状態で私の事務所に相談に来られました。

 破産の申立
Aさんの月収は5万円程度しかなく、サラ金会社に返済することは全く不可能で、私はAさんの依頼を受け自己破産の申立を大阪地方裁判所にしました。そして、めぼしい財産もなかったので、破産宣告と同時に破産管財人がつくこともなく破産手続は終了となりました。その後、免責を不許可にするような理由もなかったので、裁判所で免責決定が出て、Aさんはサラ金に対する借金を払わなくてすむようになりました。

 ヤミ金との対決
問題はヤミ金業者に対する借金をどうするかでした。なにしろ、ヤミ金業者のほとんどは携帯電話の番号しか分からず、住所や正確な氏名など全く分からず破産申立の際に裁判所に提出する債権者一覧表に載せることが出来ない業者が大部分でした。ヤミ金業者が取る利息は、Aさんの場合のように貸金5万円に対し1週間でその2割の1万円、年利にすると960%というべらぼうな高金利で出資法違反は明らかです。法律的にはそのような違法な貸付契約は公序良俗違反で無効で、Aさんには支払義務はありません。たとえ、最近借りて一回も返済してないような場合でも、不法原因給付に該当し、Aさんは返済する義務はありません。

私は、40件ほどあるヤミ金業者の携帯電話に1件、1件電話をかけまくりました。Aさんの代理人についたことと、Aさんには支払義務がないから今後一切取り立てしないということを伝えるのが目的でした。電話をすると、相手は「なにおー」「勝手にさらせ」「お前なんちゅう弁護士や。事務所どこや」「1回も返さんと詐欺やないか」などと怒ったり、一方的に相手が電話を切ったするのが多いのですが、こういう場合はひるんでは駄目で、毅然と冷静に対することが大切です。中にはしつこく1時間ほど延々と話しをして電話をなかなか切らせてくれず哀願調になる業者もいたり、また「分かった」と意外とあっさり諦める者もいるなど、相手によって対応に随分違いがありました。違法なことを平気でするヤクザのような相手が多いので、最初に電話する時は少し気が張るものですが、何件も電話しているうちに、こちらも段々と要領が分かってくるものです。しかし、40件も同じような話しを何度も何度もすると、電話を切った時はさすがにぐったりします。

弁護士が一度電話をすると、7割程度ヤミ金業者からの取り立てはストップします。彼らも違法なことをしていることは知っており検挙されることを恐れていますから、それ以上のことはしないのが普通です。但し、その後もしつこく嫌がらせを続ける者もいます。Aさんの所にもヤミ金からの怖い取り立ての電話もなくなりました。Aさんからの依頼事件はこれで終わりました。

その後、Aさんは無事出産したことと思いますが、大学生との間で認知や養育費についてどのように話しをしたのか、Aさんからは何も聞いていません。まだ若いAさんと生まれた小さな子供さんのこれからの幸せを祈るばかりです。